んな文句を覚えたもんだか。大宮人の感懐が、一番山の奥の田舎者にしみ込んで残っていたんだから、凄いですよ。ね。」
 僕らは負けた、という意味をこめ矢代は千鶴子を顧みて笑った。沼の小径に円く並んだ紫陽花の莟がほんのり色をつけていて、躑躅も朱色を水際に映している。矢代は対岸のなまめいた赤松の肌を見上げながら、この公園がまだ大名屋敷だったそのころのことを思い描いた。そして、蒔絵の文箱を持った奥女中が矢立に帯を結び、水際の睡蓮の傍でそっと蓋を抜いてみている、その手紙の中の文章を想像した。それはおそらく、とよの手紙のように韻をふくんだ、鳴り出すような人間味豊かな手紙だったにちがいないと思った。それに今はどうだろう、自分にしても婚約のあいだの千鶴子に示す手紙に、光線の原理など書かねばいられぬ時代になっているのだった。そう思うと、とよの手紙に笑い転げたと同様に、自分の手紙にもそれ以上のおかしなものもあるのだろう。しかし、そのためようやく二人の離れようとする危機を先ず一応は喰いとめ得たのであれば、もう情熱の美しさだけでは人心を捉え得ぬ、非人間的な、多くの希望が人を寸断しかかっているのだとも思った。そして
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