りましたよ。もっとも、そのときの愛人は今の主人かどうかは疑問だが、あれほど細君から感謝され通している主人というものも、僕はまだ見たことがないなア。賞めるわ賞めるわ。またこの大工は、嘘というものが云えない人物でね。」
矢代は、このような原始的な、いのちの歓びに溢れた夫婦の美しさを、いつの間にかもっとも低級と思いがちになっている一般の判断がおぞましくて云ったのだが、しかし、そんな自分の意見は、この場合まだ二人には棘となって立ち云い出しがたかった。
千鶴子は笑いとまってからも思い出してからまたくつくつ笑った。それも暫くしてから、先日矢代に出した自分の手紙のことも同時に思い泛べたと見え、
「もうあなたには、これからお手紙あげないことにしますわ。」とそう云って軽く吐息をついた。
「何も今からそう謙遜したものでもないでしょう。とよの手紙のような文章は、僕等の時代のものには、誰も書けないんだからなア。実際、個性というようなものが、明治の中期から日本に這入って来て、だんだん人間が機械になって来たので、夢のかけ橋かすみに千鳥なんて、そういう風なものをみんな消してしまった。しかし、とよがまたどこで、そ
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