子の手紙の中の不眠のことを思い出し、それもそうあろうかと、むしろその方が彼女の篤実ささえそこに感じて同情した。
「このごろはいいんですの。」
胸の底ふかくからようやく出て来たような、ぼんやりした千鶴子の声だった。そのうち、手紙から受けた痛みの脱落してゆくものに代り、何か、再び満ちゆく明るいものもあろう、という意味のことを矢代は云いたかったが、今はなおそのまま、自然な心の姿にしておきたく思った。時計を見ると時間はまだ早かった。東野と一緒に三越へ行って、結納の品を三人で整えるこの日の訪問だったので、今から彼の宅へ上り込むよりも少しここで時間を費したかった。もともと三越へ品定めに出かけることを云い出したのは真紀子にちがいなかったから、東野邸へは、真紀子は誰より早く来ていそうにも想像された。
「しばらく見ぬ間に、この五月というのは、自然の変化が素晴しく迅いなア。」
滑らかな榎の肌から噴き湧くように、点点とした新芽は鮫小紋に似ていた。気体の含んだ水気が嫩葉の裏にまでしみこもっていて、しなやかな葉脈が葉の重さを耐え支え、静謐な湿りの重なりあう隙間にまで、日の光が充ち跳ね返っていた。矢代はそこか
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