おくるみの中にいる児と別に違わぬように思われて、駄駄をもこねかねない自分になりそうな気もされると、いつまでたっても、子は子のようなことより考えられぬものだと思うばかりだった。理窟だけは一通り云うことが出来ても、母にはもう言葉など一切無用のものに見えて胸も透り、感謝の念も昂まって来るのだった。森の梢に風が立った。そして、夕日が校舎のガラスを射ながら沈んでゆくのを見おさめてから、矢代は家の方へ引き返した。出て来るときは、気重く充実した気持ちで坂を下ったのも、帰りはもう一度少年のころの駄駄を繰り返すような気軽さで家へも這入れた。家では夕食の用意が出来ていた。
食事をすませてから湯に入り、お茶どきに母の呼ぶ習慣の時間の来るのを書斎で待っている間も、彼は、初めに母に云い出す言葉を一寸考えてみた。しかし、ひとり考えた通りの切り出し方は出来そうにも思えず、そのときの成りゆきに任せ自然に唇が動くままにしたいと思って彼は気を沈めるのだった。
間もなく階下から母と幸子の話し声が聞えて来た。話は猫を病的に愛する癖のある隣家のことで、話のひまひまに幸子の笑い声が暢気に高くつづいていた。婦人ばかりの隣家には
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