り、そこも桜の吹きこぼれた草の間を水が流れていた。巻き下って来る厚い泡の中には、桜を集めた塊りが浮んでいて、瀬の落ち込む水流に撥ねられ、花の団塊は熄む間もなくぐるぐる白い圏を描いていた。
 矢代は木橋の袂によって水面を見降しているとき、三十を二つ三つ過ぎた主婦が、片手に重い包みを携げ、片方で生れて日数のたたぬ赤ん坊を抱いて通っていった。着ぶくれた赤ん坊は母親の両腕から爆けそうにかさ張っていて、厚ぼったい綿入れのおくるみの襟が歩く度びに拡がった。別に取り立てた光景ではなかったが、見ていると、唇のようなその厚い友禅のおくるみが拡がるので、母親の眼が邪魔され、彼女は立ち停ると襟を口で啣え引きよせてはまた歩いた。その様子は、餌を啄んで来た親鳥が子鳥に物をふくませている必死の籠った恰好に見えて、矢代は暫くその母親の姿から眼が放せなかった。
 いつもの時ならともかく、夜になれば千鶴子のことを母に云い出そうと決めていたときだけに、親鳥のその姿は、自分の知らぬ部分の母の労苦に見えて胸を衝くものがあった。しかし、今彼は、そのような光景から特殊な意義を見つけたい気持にはならなかった。むしろ、今は自分もまだ
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