不思議なほど羞かしさを感じてつい怯んだ。ほんの一言で良さそうに思えるその瞬間が、どうしてこんなに羞しく感じるものか、彼はわれながら意気地のなさに呆れ、夕暮の迫って来た自宅の傍の小路をひとり廻り歩いてみた。心の落ちつきを計ってみたり、新芽をち切り歯で咬み砕いたりしながら、同じ道を幾度も歩いては、千鶴子もこのような気羞しさを押し切っていったものだろうかと、今さら女性の勇敢さに彼は感心するのだった。そのうち、桜の葩のあたりの路上を白く浮き染めている所まで来たとき、
「ほうッ。」
 と、彼は初めてそう呟いて立ち停った。透明な薄明の迫って来る冷たい底から、眼に沁みこもる葩の白さに彼は急に結婚のことも忘れた。それは世にも見事な、思いがけない美しい世界だった。まだ人にも踏まれていない、点点とした鹿の子斑な路の上は、埃もなく少し湿り気を帯びた柔かさで、見れば見るほど、いちめん葩を滲ませていた。
「これはどうだ。縁起がいいぞ。」と彼はまた呟いた。薄雪のように鮮やかな路はまだどこまでも続いていた。下から射す明るさに眼も落ちそうになり、定めようのない焦点の散乱した思いで矢代は坂を下っていった。坂の下に川があ
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