日の挿話について語った。それによると、パリを発つ東野のことを聞いて来た久慈が、真紀子も一緒に連れて帰ってくれと彼に頼み、そして云うには、もう自分と真紀子とは別れること以外どう仕様もない事情にまで来た。原因についてもこれも判然としないが、前から東野に真紀子が俳句を見て貰いたい意志のあるのを幸いにして、今日は押しかけて来たのだから、自分は真紀子をよく荷造りした手荷物にするから迷惑でも、これを日本まで持って帰って貰いたいと云ったという。その荷造り君が出来るかと東野が訊き返すと、それは大丈夫自信があるという答えに対し、東野はまた、それでは今から少し袋の一角を切り取って置いてくれるように、そこから俳句を御馳走して健康の恢復に努めてみようと、そういう二人の単純な冗談がもととなって、意外にもそれが事実化して来たのだとの旅先に有りがちな挿話だった。
「しかし、そのエピソードは句の美しさを殺して駄目だな。」と矢代は云った。
東野は黙っていた。彼にしてはむしろ句の善悪よりも、前からの真紀子との間の自分の立場を明瞭に語りたい意の動きで、彼女の作句の中からそれに適当したものを択んだにちがいないことは分ってい
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