みそぎをしたいと思うのが。」と彼は笑って千鶴子に訊ねた。
千鶴子は答えかけては唇を慄わせたかと思うと、またそのまま黙ってだんだん青くなった。
「僕はあなたには、カソリックでいていただいていいんですよ。それはそうなんだけれども、もう少し云いたいのです。僕の家は自慢を云うわけじゃありませんが、むかし城を持っていたのです。ところが、カソリックの大友宗麟に滅ぼされたのですね。僕は何もそのためにカソリックを怨んじゃいないけれども、奇妙なことに、また話は飛びますがね、そのときの先祖の苦心を思うと、どういうものか、あなたがアメリカを廻って帰られるときに、御一緒だったという侯爵のことが浮んで来るのですよ。少し突然でどうもまた怪しまれそうだが、あなたの兄さんはただ侯爵侯爵とばかり仰言っていて、どの侯爵かつい分らずじまいでしたから、どなたですあの侯爵。一度お礼を云わなくちゃ。」
「田辺侯爵ですの。」と千鶴子は低い声で、このときもまだいやらしそうな眼つきだった。
矢代は侯爵にはいままで一度も会ったことがなかった。しかし、その人の先祖の城は日本で一種特別な城として有名で彼も二度ばかり見た記憶があった。雨中に眺めたときの姿は、矢羽根を連ねたような黒褐色の壮大さで、自分の国の崩れた城跡とは凡そ反対な、一見翼を拡げた見事な鳶を聯想させた。その姿の下に、雨水を集めた大河が泡立ち流れとぐろを巻いていたさまは、栄え極めた鮮明な美しさの城だった。
「一度、僕にその侯爵を見せていただけませんかね、何んだか、僕はその方から鳶を感じるんだが、そういう方でもないんですか。」
「鳶?」
「そう、どういうものだか鳶に似てるね。」
千鶴子は高い崖から飛び降りたときのようにまだ呼吸を弾ませ、暫くは笑顔もなく怨めしそうに黙っていたが、ふうっと太い吐息をついて空を見上げた。
「あたし何んだか眼暈いがするの。すみませんが、自動車探していただけませんかしら。」
静脈の浮き出た千鶴子の額の汗ばんでいるのを見て、矢代はすぐ外に出た。彼はタクシを探しながらも、予想以上に衝撃を受けたらしい千鶴子に同情するのだった。たしかにカソリックを誇りとしていることに間違いのない千鶴子だと分っていながら、つい話の調子が意地悪くあんなに辷っていったということは、もうあの場合は、音波の拡がりのような運命だったのだと矢代は思った。また深く考えずと
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