うことですがね。きっと僕らの大むかしにもあなたと僕とのように、こんなにして帰って来た先祖たちがいたのですよ。むかし日本にお社が沢山建って、今の人が淫祠だといってるのがあるでしょう。その淫祠の本体は非常にもう幾何学に似てるんですよ。それも球体の幾何学の非ユークリッドに似ていて、ギリシアのユークリッドみたいなあんな平面幾何じゃない、もっと高級なものが御本体になっていたんですね。つまり、アインスタインの相対性原理の根幹みたいなものですよ。それもアインスタインのは、ただの無機物の世界としてだけより生かしていないところを、日本の淫祠のは、音波という四次元の世界を象徴した、つまり音波の拡がりのさまを、人間の生命力のシンボルとして解しているんですね。それも函数で出てるんだから、自然科学も大むかしの日本では、そこまで行っていたとまでは云わなくとも、非科学的なものではない。妙なものだ。今はむかしというのは。」
 千鶴子は一寸顔色を変え居ずまいを正した。明らかに矢代の正気を疑う風な様子だった。
「大丈夫さ。そうびっくりしなくたって。僕は先旦言霊という大むかしから伝っている本を読んだのですが、その感想を云っているだけなんですよ。面白いんだ、僕の読んだ言霊という本の中に、今の理学の大家と人類学の大家と二人が、その言霊の研究者の八木という八十のお爺さんに教えて貰ってる所があるのですよ。ところが、二人の博士が音波が函数にまで出ているのを見てもうびっくりしてるんです。つまり、この博士たちは誰より日本にびっくりした先覚者なんですね。僕はこの博士もやはり豪かったのだと思うんです。誰もそんなの聞いたって、びっくり出来るもんじゃないからな。カソリックのあなたにこういうのは失礼だけれども、しかし、こんなこともあると思われることも、たまには良いでしょう。あんまりみんな馬鹿にしすぎたんだから。たしかにその点文句は皆には云えないですよ。」
 黙って何も云わず濠の底を見ている千鶴子の顔に、ときどき反抗したげに藻掻く微笑が出没した。濠の底で電車の黒い屋根が二つ擦れ違いざまに流れているのを眼で追いつつ、矢代はそれも亀板面に顕れた二つ巴の周囲を円廻する光の波の函数の図と同様に見え、面白かった。山の手省線の円鐶を貫く中央線のカーブが、その曲玉を二つ連ねた巴の線と同似形なのが面白かった。
「分って下すったですかね。僕が一度
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