も、やはり一度は同様のことが当然来るべきことも分っていた。避けられぬことならまたこれもやむを得ず、このまま自分も別れて行こうと彼は決心を固め、聖橋の袂の所に立って往還を眺めつづけた。胸の痛んで来るような寂しさももう全身に廻っているかとも思えるほど、秋の日のまぶしさに却って身体がだるく、放心したように彼は何も考えていなかった。すると、そこへ千鶴子が後から来て矢代から少し離れて立っていた。
「もういいんですか。まだ少し顔色がよくないなア。」
矢代は千鶴子に近よっていって訊ねた。
「あそこ空気が籠っていけないの。歩く方がいいわ。」
千鶴子は顔を背け先に立って聖橋を渡って行きかけたが、また急にひき返してお茶の水の駅の方へ歩いた。矢代がタクシを拾うまで待つようにひきとめてみても、やはり千鶴子は後姿を見せて駅の中へ入って行った。消えて行く千鶴子の後姿がひどく慎ましやかに見え、小さな黒い帽子の後に下っている紅色のネットが、突然パリの匂いを吹き送って来た。彼はあのときの二人の夢のような調和と、今のごつごつした喰い違った想いの相違も、すべてはこういうのを実際に起っている夢と現実との相違だと思い眼を見張った。それも日本へ帰ってからのこんな二人の不幸は、やはりこれは日本の不幸ではなく、日本と違ったものを見てしまったものの、天罰に等しい個人の孤独な不幸にすぎないのだと思うのであった。
そして、もしそれが本当なら、自分も千鶴子もその孤独を守り合うより今は仕様がないのだと、そんな覚悟もまた強くなって、千鶴子の後から駅の中へ入って行った。
駅の中で千鶴子は買った切符を黙って一枚矢代に手渡した。その切符は有楽町行きになっていたが、二枚買ったところを見ると、まだふくれているといえ、千鶴子の意志が矢代にはよく分った。
晴れた日のお茶の水から有楽町まで行く間の高架線は、東京中で一番人を楽しませてくれる所だと、矢代は前から思っていた。それが丁度偶然にそんな結果となって来たのが彼を喜ばした、また外国のいろいろな都会の中で、活気のもっとも旺溢しているのは東京と大阪だと彼は帰ってから思ったが、その中でも特に旺んな場所の一つはお茶の水から有楽町あたりまでだった。今そのあたりの屋根の上を踏み流れて行くような明るい速度は、たしかに楽しみなくして眺めずにいられぬものだった。
「僕はこのへんが前から非常に好きで
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