森まで人工だから、僕らこれでどこまで胡魔化されてるか、もう分らないな。こんなになると日本へ帰ってから、日本がつまらなく見えて困るぞこれや。」
ぼそぼそ独言をいうように呟きつつ歩く矢代の前へ、鳥の糞が落ちて来た。しかし、千鶴子は、森の人工であろうが自然であろうが少しも意に介しない様子で、ときどき男女の一組が草の中に横わっていても、その傍を快活に除けて歩いた。森の中には自動車道が縦横についていた。千鶴子は樹の間から道が少しでも見え始めると、すぐまた自動車の音のしない反対の奥の方へ自分から進んだ。
「こんなにお昼だと道なんか迷うほど面白いわ。もっと奥へ行きましょうね。道はうるさくって。」
こう云いながら行く千鶴子の後から、これでは案内されるようだと矢代は思って苦笑するのだった。そのうちあたり一帯背丈を没するほどな蕨の密集している原の中に這入ってしまった。そこを千鶴子はひるまず、両手で葉を頒けつつ突き抜けようとした。
「一寸待ちなさいよ。これやみな蕨《わらび》ですよ、素晴らしい蕨だな。」
「これ蕨? 羊歯じゃありませんか。」
「いや、蕨が延びるとこうなるんです。籠を編む、ほら裏白とか何んとか云いましたね。」
「ああ、あれね。」
一群の羊歯に似た原が蕨の藪だと思うと、一層元気が出たらしい風で千鶴子はまた進んだ。このあたりは人も這入らぬと見え、原始林をそのままの形に残した物物しさにも、やはりどことなく人工が感じられた。矢代は千鶴子に手伝い裏白を頒け頒けしているものの、この無駄な努力に勢いを出すのも、もう永く遊んだ退屈さに耐えられなくなった二人だからだと思った。
「まるでこれや稲刈りだな。」
と矢代は云って笑った。千鶴子も笑いながら並んで同じ動作を繰り返していくのだったが、少し疲れて手から力を抜くと、たちまち密集して来る海老殻色の茎の弾力に跳ね返されて二人は打ちよせられた。足で踏みつけた茎も二人の過ぎた後方で戻り合う音を立てていた。
「君、これは後へも帰れなければ、前へも行けなくなるぞ。向うが見えないんだもの。たいへんなことをし出かしたものだ。」
「だって、かまやしないわ。」
「無茶だね君は。ここが行けると思えますか。」
こう云っているときでも、もう強い茎の群団は二人の周囲を隙間なく押し締めて来た。二人は身動きも出来ないばかりか、両足の間へも跳ね返って来る茎から足を抜く
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