。」
ふと私は意味の分らぬことを妻に口走った。先からの私の素ぶりで妻は何か察したようだった。
「そうですよ。まだお若いんですもの。そのネクタイはあたしも好きですわ。」
「これか。」
これはハンガリヤで一人の踊子、イレエネといったが、その娘からいま妻が洩したのと同じような口ぶりで、賞められたことのあるネクタイだった。あのダニューブの夜は愉しく私はイレエネから、手を取られて習ったハンガリヤの踊りの足踏みをつま先に感じ、攻め襲って来るような雪の若い群れを見渡しながら、用意はこちらも出来ている自信で私は穏かになった。そして、いよいよ自分の出番になったと思った。一陣は参右衛門で昨夜は失敗、次ぎが清江でこれは立派な成績、その次ぎが私のこれからだった。眼ざす私の舞台は漠として分らなかったが、それは今日の農会の人の集りのようでもあれば、強盗横行の東京のようでもあり、そのどちらでもない、荒れ狂った濁流の世の若さが、今見る雪の飛び交うさまに見えたりしているようでもあった。
午後家を出てから長靴で、雪を踏むときも、つねになく私は元気であった。釈迦堂まで行く参道の両側の杉が太く雪の中に幹を連ねて昇って
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