、暗闇で打ち合わす手は半分脱れていた。しかし、そうなると、謡い終った清江を参右衛門はもう赦しそうになかった。清江は彼にせがまれてまた謡った。
「朝鮮とオ、支那とさかいの、あの、鴨緑江オ――」
鴨緑江節となっては、参右衛門ももう我慢が出来なくなったらしく、「流す筏は……」その後を今度は夫婦揃ってやり始めた。私もひどく愉快になった。そして、もうこのまま一緒にこの良い夜を明そうと思い、隣室で寝ながら二人の歌を愉しく聞いた。若さがしだいに蘇って来るようだった。
十二月――日
雪が積っていてまだ歇《や》まなかった。私は筧《かけひ》の水で顔を洗い終ってからも昨夜のことを思うと、石に垂れた氷柱の根の太さが気持ち良かった。久しく崩れていた元気も沸いて来た。今日の午後から農会の人たちと釈迦堂であうことになっていたのが、それが先日から気がすすまずいやだったのも、よし会おうと乗り出る気にもなったりした。
私は三ヵ月ぶりに手鏡を前に剃刀をあててみた。刃のあとから芽の出て来る姿勢で、雪にしだれた孟宗竹のふかぶかした庭に対い、私はネクタイの若やいだのを締めてみた。
「いつまでも、こうはしちゃおれぬからね
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