いる。石畳のゆるい傾斜の途中に山門が一つあって、左手に谷のように低まった平野が雪で掩《おお》われている。いま私の会おうとしている人たちは、この広い平野全面の村村に設計を与え、実行に押しすすめ、危機に応じる対策を練り、土地と人との生活の一切に号令を下している本部である。私と何の関係もない人人であるが、私はこの健康な人人の意志の片鱗をただ一言覗けば良い。この人たちの私に需めるものは、おそらく批評であろう。それらの人人の失望することは疑いないが、私にはただ利益あるのみであった。
集りは本堂の北端にある和尚の書院だ。清潔な趣味に禅宗の和尚の人柄が匂い出ていて抹香《まっこう》臭なく、紫檀《したん》の棚の光沢が畳の条目と正しく調和している。正面の床間の一端に、学生服の美しい鋭敏な青年の写真が懸けてある。私はそれを振り仰いで伊藤博文に似た貌の和尚に訊ねると、長男で電信員として台湾へ出征中、死亡の疑い濃くなって来ているとの事である。すでに私は大きな悲劇の座敷の中央にいつの間にか坐っていたのだ。
「しかし、台湾なら、まだ……」
と、私が云いかけると、
「いや、途中の船でやられたらしいのです。調べて
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