衛門は寝室へ這入った。そこは私の寝ている部屋と杉戸一枚へだてているだけで一層私に近くなった。彼の足の先は私の頭のところにありそうだが、寝てくれて静まったと思うと、またすぐ彼は歌を謡い出した。それも炉端のときと同じ歌のくり返しで私は眠れないが、同年のおもいは年月の深みに手をさし入れているようで、彼の脈の温くみが私にも伝わって来る。
「もっとやれ、いいぞ。」と私は云っている。
自分らの青春の夢は、明治と昭和に挟み打ちに合った大正で、以後通用しそうなときはもうないのだ。
「朝鮮とオ、支那の……流す筏《いかだ》は……おい、お前やれよ、おい、やれってば。」
呂律《ろれつ》の怪しい歌を一寸やめては、参右衛門は清江の枕を揺り動かすようだ。それが二三度つづいたときだった。
「おおばこ来たかやと……
たんぼのはんずれまで、出てみたば……」
清江の歌が聞えて来た。彼女の眼のような、ふかい穏かに澄んだ声である。それも、もう羞しそうではなかった。参右衛門は、よもや清江が歌うまいと思っていたらしく、この予期に反した妻の歌には虚を衝かれた形で、暫くは彼も音無しくしていた。が、「うまい、うまい、うまい。」と
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