良な人物だと信用する気になった。
 貨車賃を等分にし、駅までの運搬その他、必要事項を定めるときにも、
「貨車賃は要りませんよ。どうせ、わたしの方は送るついでですから。」とそう男がいう。
 炉の中で枯松葉が良い匂いを立てている。その匂いがまた善かった。私は帰ろうとして立ちかけると、
「米は?」と男は訊ねた。
「米は入れてないですよ。」
「どうして?」いぶかしそうにまた訊ねる。
「買う暇もなし、何とかなるでしょう。」
 男は前にいる宿の主人と顔を見合せて黙っていた。貨車に荷を積み込むときや、着いてからまた荷別けのとき、その他私らの立会いでするべきことも、皆私はしないつもりであるから、荷の目標《めじる》しをしておかなければならぬ。
「荷の着くころ私は東京へ行ってるつもりですが、ひと先ずあなたのお宅へ私のも預けてもらえませんか。それでないと、東京の方の運搬事情は、終戦後どうなっているか、さっぱり僕には分りませんからね。」
「そうしときましょう。」
 これも不安なほど簡単だ。とにかく向うにとってはどうでも良いことばかりだが、私にとっては運命のある部分を賭けたようなものである。乗ったが最後ひき摺ら
前へ 次へ
全221ページ中193ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング