坪の見事なもので、廊下でつながった別棟の数軒に囲まれた広い庭の中央に、大きな池があり、根元から五つに岐れた榧《かや》の大木が枝を張っている。島にかかった俎形の石橋が美しく、左端の池辺にのぞんだ私たちに当てられた部屋には日光室もある。小雨が降って来て、濡れた落葉の漂う庭の向うからショパンの練習曲が聞えて来る。疎開して来ている大審院の検事総長の部屋のピアノだとのことだ。落葉の静かな池辺によく似合った曲で、晩秋の東京の美しさがこういう所へ移って来ているのを感じた。
夕食に最上川で獲れた鮭が出る。見事な味で、その他、鮪、豆腐、なめこ、黄菊、天麩羅《てんぷら》、生菓子、いくら等。
座談会に集った人たちは二三十人で、私は昨夜考えて来た田園都市と文化人と題し、重苦しいテーマ二十ばかりを出して概略を述べてみた。
「私たちの階級では、諦めということが何よりの訓練とされておりまして。」と、こう云った婦人が一人あった。私の階級とはどのような階級か私には分らなかったが、人人が帰った後でその婦人は、この地方の旧大名の夫人だと判明した。その後で、またこの地方の大地主三人がしきりに小作人問題で討論していた。ここ
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