す鮮かな静けさを増して来る夕暮どき――

 十一月――日
 余目から最上川に添って新庄まで行く。最上川の紅葉はつきる所がない。万灯の列の中を過ぎ行くように明るい。傍に南鮮から引き上げて来たばかりの三人の婦人が語っている哀れな話も、紅葉の色に照り映って哀音には響かず、汽車は混雑しながらいよいよ錦繍《きんしゅう》の美に映えてすすむ。妻の亡父がこのあたりの汽車から見える滝のあたりに、自分の山のあることを話していたのを私は思い出し、注意して見ているうち、対岸の断崖から紅葉の裏を突き通して流れ落ちている滝が見えた。ここだなと思う。
「現金なものですね。毎日したしく話していた朝鮮人も、その日からぱったり私らと話さなくなったんですよ。お金も家も何もかも奪られてしまうし。」と一人がいう。
「あたしはそうじゃなかった。あなたここで朝鮮人になってしまいなさいって、そういってくれるんです。なってやろうかなと、あたしは思った。今さら郷里へ帰ったってねえ。」
 こういう声を後にして三時に新庄へ着いた。醤油醸造家の井上松太郎氏の邸宅へ向う。この夜ここで催される座談会に私は出席するためである。

 井上氏の庭は数千
前へ 次へ
全221ページ中164ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング