ときから米の値は一躍騰った 一升が四十円ほどになって来たのだ。東京からの通信では六十円から七十円になっている。一升五円以上の値で売るものなどこの村にはないのうと、そう久左衛門の云っていたのは夏のことだ。それが二十円になったときには村のものらは眼を見張ったものだが、今は誰もが、暴れ放された駻馬《かんば》を見るように田の面を見ているばかりである。
「これじゃ、この冬は餓え死するものは多いのう。」
 と、久左衛門は気の毒そうにいう。
「もうこんなになっちゃ、東京へ帰って隣組の人達と一緒に、餓え死する方がよござんすわ。帰りましょうよ。」
 と、妻は私にそっという。帰る決心のついたことは良いことだ。この夜、妻は衣類を巻いて隣家の宗左衛門のあばの家へ裏からこっそり出ていった。そして、戻って来てから、
「宗左衛門の婆さん、宗左衛門の婆さん。」と嬉しそうに呟いている。話はこうだ。妻が一俵四百円で米を売ってはくれまいかと頼むと、この寡婦は眼を丸くぱちぱちさせていてから、暫くして、
「罰があたる、罰があたる。」とそう二言いって顔を横に振ったそうだ。「そんな高い金では売られない。供出すると六十円だぞ。それに
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