少し鍋が煮えて来ると、蓋を取ってみて、汁を一寸指につけては、
「ほう、甘い甘い。今にのう、ぼた餅につけて、うんと美味いの食べさせてやるぞ。」
と、私の子供らにいう。子供らは面白がって庖丁ですぽりすぽりと糖黍を切り落していく。参右衛門は杓子《しゃくし》で攪《か》き廻しているうち、鍋の汁は次第にとろりとした飴色の粘液に変って来る。
「ほう、これは美味い。砂糖だ。」
相好を崩してそういう参右衛門の髭面へ、鍋炭が二本灼痕のように長くついていて、味噌や醤油を作る夜とはだいぶ様子が違っている。大人に見えるのは清江一人だ。
十一月――日
路の両側から露れて来た茨の実。回復して来た空に高く耀く柿の実。紅葉の中から飛び立つ雉子の空谷にひびき透る羽音。農家はこうしてまた急がしくなって来たようだ。朝霧の中で揺れている馬の鬣《たてがみ》。霜の降り始めた路の上で鳴りきしむ轍《わだち》の音――
一俵千五百円で二十五俵を都合をつけてくれという闇師が、先日からこの村へ潜入して来ている。東京までトラックで運ぶということ、そんなことは出来るものではないという結論で、これは纏《まとま》らなかった様子だが、その
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