のを絶景といわずに、いい景色はないものだ。」
私はもう柴など拾いたくはなく、縄を腰にくくりつけたまま灌木の間をぶらぶらした。鮮紅の茨の実が滴り落ちた秘玉のようで、秋の空がその実の上であくまで碧く澄んでいる。もしこれで右手の入りこんだ平野が海だったら天の橋立という感じになるここの尾根だ。しかし、海であるより平野のこの方が変化があって私には好ましい。
今から十七八年も前のある夏、ここから一里ほど左方の由良という漁村へ海水浴に来て、私は機械という作をそこで書き上げたことがある。先日も由良はここから近いと聞いてなつかしくなり、峠越えに出かけてみた。終戦後二日目、私も元気がなく思い出を辿るばかりだったが、私の借りていた二階の部屋を下の路から見上げると、その窓から見知らぬ疎開者の女が一人、これも頬杖ついたまま行くさき分らぬ思案貌で私を見降ろしていた。十八年前の家主の和田牛之助は死んでいて、そのときは、私は中へも入らずそのまま夕暮の漁村を素通りして来た。私のいまいる家の参右衛門の所で生れた老婆の利枝は、この由良へ嫁入って来ているので、その日私は利枝の家で魚の御馳走になったりした。
「由良の婆さ
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