ぎがまだ産れそうな気配がないので、もう爺さん夫婦から睨まれている。いつ離縁になるか分らぬ不安ながらも、このごろは嫁もよほど覚悟が定って来たらしい働きぶりだ。ところが、本家のここの参右衛門の家では、樺太出征中の長男の帰りがいまだに分らぬので、嫁は実家へ帰りきりである。夜だけ寝にここへ戻って来るときの、その嫁の大切にされることは女王のごときものだが、いつ嫁に去られるものか気配も相当に不安な模様に、参右衛門夫婦のひそひそ話もいつもここへ落ちて来る。静な気立の良い嫁であっても、まだ実家の云うままに動く娘のままで、村で二番の裕福なその家から、一番の貧農のこの家の嫁になっている現在の情況から想像すると、参右衛門の不在の長男は稀に見る立派な青年らしい。「あそこの長男は豪い。あんなの一人もいない。」と村のものらはいう。
 応召の際、父に頼んで、毎夜その日の支出費だけ必ずつけてくれと、云い残しただけだとの事である。酒で家を潰した父に対する釘としては、もっとも確実な打ち方だ。
 青柿が枝のまま風に騒いでいる。夕映えの流れた平野の上を走る雲足に木立が冷たい。濡れた青草を積み、農具の光ったリヤカーを引いて戻っ
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