夢もろもろ
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)現識《げんしき》
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    夢

 私の父は死んだ。二年になる。
 それに、まだ私は父の夢を見たことがない。

    良い夢

 夢は夢らしくない夢がよい。人生は夢らしくない。それがよい。

    性欲の夢

 トルストイがゴルキーに君はどんな恐ろしい夢を見たかと質問した。
「長靴がひとり雪の中をごそごそと歩いていた。」とゴルキーが答えた。
「うむ、それは性欲から来ているね。」と、いきなりトルストイは解答を与えた。
 何ぜか、これは少し興味がある。

    恐い夢

 私は歯の抜ける夢をしばしば見る。音もなくごそりと一つの歯が抜ける。すると二つが抜ける。三つが抜けたと思わないのに、不思議に皆抜けているのである。赤い歯茎だけが尽く歯を落して了って、私の顔であるにも拘らずその歯を落した私の顔が私にからかって来るのである。

    夢の解答

 私は今年初めて伯父に逢った。伯父は七十である。どう云う話のことからか話が夢のことに落ちて行った。そのとき伯父は七十の年でこう云った。
「夢と云うものは
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