気にするものではない。長い間夢も見て来たが皆出鱈目だ。」
たまらぬ夢
ある小説に、妻が他の男と夢の中でけしからぬ悦び事をしているにちがいないと思って悩む男のことが書いてあった。男はそれを、
「たまらぬことだ。」と云っていた。
なるほど、これはたまらぬことだ。手のつけようがないではないか。そう云う妻の行為に対する処罰の方法は! それは空を見ることだ。空を見ると、夜なれば星と月。星と月とを見ていれば、総てが夢だと思うだろう。空は無いもの。夢は空と同じ質のものに相違ない。
夢の定義
生理学の夢の定義は、夢とは催眠中の記憶が現識《げんしき》の中に呼び起されたものだと云う。してみれば、夢の中の妻の行為は良人にとっては重大なことである。
夢の効果
愛人を喜ばすには、
「私は昨夜あなたの夢を見ましたよ。」と云うが良い。
なお喜んで貰うためには、
「私はこれからあなたの夢を毎夜見ようと思います。」と云うが良い。
またもし彼女と争うた場合には、
「ああ、私は今夜あなたと争った夢を見なければなりません。」と云えば良い。
そうしてもしも、彼女が君を裏切ったと
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