きが来たならば、いとも悲しく細々と、
「私は毎夜あなたの夢をひとり見て楽しむことといたしましょう。」と云い給え。
 またもし君が彼女を裏切った日が来たならば、
「私はあなたの夢となって生涯お怨みいたします。」と云われなければ君は不徳な男である。

    痛快な夢

 私は喧嘩をした。負けた。蹴り落された。どこへともなく素張らしい勢いで落ち込んで行く。ハッと思うと、私の身体はまん円い物の上へどしゃりッと落《おっこ》ったのだ。はてな―ふわふわする。何ァんだ。他愛もない地球であった。私は地球を胸に抱きかかえて大笑いをしているのである。

    まごついた夢

 歩こうとするのに足がどちらへでも折れるではないか、……………

    面白くない夢

 金を拾った夢。……………

    笑われた子

 これは夢を題材にした私の創作の中の一つである。ある子供の両親がその子を何に仕立てていってよいものかと毎夜相談をしている。そう云うある夜、子は夢を見た。野の中で大きな顔に笑われる夢である。翌朝眼が醒めてから子はその夢の中の顔をどうかして彫刻したくなって来た。そこで二ヶ月もかかって漸く彫刻仕上げ
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