あって、何を云っても彼を許しておけるのだった。
「父島まではどれほどかかるのです。」
「二時間です。あそこの電力は弱いから、実験は思うようには出来ないんですよ。それでも、一万フィートぐらいまでなら、効力がありますね。初めは海中では駄目だろうと思っていたんですが、海水は塩だから、空気中より海中の方が、効力のあることが分りましたよ。」
「へえ、一万フィートなら相当なものだな。うまくゆきますか、飛行機だと落ちますね。」
「落ちました。初め操縦士と合図しといて落下傘で飛び降りてから、その後の空虚《から》の飛行機へ光線をあてたのです。うまくゆきましたよ。操縦士と夕べは握手して、ウィスキイを二人で飲みました。愉快でしたよそのときは。」
 自信に満ちた栖方の笑顔は、日常眼にする群衆の憂鬱《ゆううつ》な顔とはおよそかけ放れて晴れていた。
「潜水艦にもかけてみましたが、これは、うっかりして、後尾へ当っちゃったものだから、浮きあがる筈《はず》のやつが、いつまでも浮かないんですよ。気の毒なことをした。でも、まア、仕様がない、国のためだから、我慢をしてもらわなきゃア。」
 ちょっと栖方は悲しげな表情になったが
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