、それも忽《たちま》ち晴れあがった。
「日本の潜水艦?」と梶は驚いて訊ねた。
「そうです。いやだったなア、あのときは。もう実験はこりごりだと思いましたね。あれだからいやになる。」
異様な事件が不思議と真実の相をおびて梶に迫って来始めた。では、みな事実か。この青年の口走っていることは――
「しかし、そんな武器を悪人に持たした日には、事だなア。」と梶は思わず呟いた。
「そうですよ。監理が大変です。」
「人類が滅んじまうよ。」
「その武器を積んだ船が六ぱいあれば、ロンドンの敵前上陸が出来ますよ。アメリカなら、この月末にだって上陸は出来ますね。」
もう冗談事ではなかった。どこからどこまで充実した話か依然疑問は残りながらも、一言ごとに栖方の云い方は、空虚なものを充填《じゅうてん》しつつ淡淡とすすんでいる。梶は自分が驚いているのかどうか、も早やそれも分らなかった。しかし、どうしてこんな場合に、不意に悪人のことを自分は考えたのだろうか。たしかに、事は戦争の勝ち敗《ま》けのことだけでは済みそうにないと梶は思った。勿論《もちろん》、彼は自分が国を愛していることは疑わなかった。負けることを望むなどとは
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