とを結びつけてみて、考え出したのですよ。それが僕の光線です。」
 この発想も非凡だった。しかし、梶はそこで、急いで栖方の口を絞《し》めさせたかった。それ以上の発言は栖方の生命にかかわることである。青年は危険の限界を知らぬものだ。栖方も梶の知らぬところで、その限界を踏みぬいている様子があったが、注意するには早や遅すぎる疑いも梶には起った。
「倒れたのが発想か。倒れなかったら、何にもないわけだな。」
 これもすべてが零からだと梶は思って云った。彼は栖方が気の毒で堪《たま》らなかった。

 その日から梶は栖方の光線が気にかかった。それにしても、彼の云ったことが事実だとすれば、栖方の生命は風前の灯火《ともしび》だと梶は思った。いったい、どこか一つとして危険でないところがあるだろうか。梶はそんなに反対の安全率の面から探してみた。絶えず隙間《すきま》を狙《ねら》う兇器の群れや、嫉視《しっし》中傷《ちゅうしょう》の起す焔《ほのお》は何を謀《たくら》むか知れたものでもない。もし戦争が敗《ま》けたとすれば、その日のうちに銃殺されることも必定である。もし勝ったとしても、用がすめば、そんな危険な人物を人は生
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