にはいくまいと思われる。しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意識をさし入れたということは、あらゆる既成の観念に疑問を抱いた証拠であった。おそらく、彼を認めるものはいなかろうと梶《かじ》は思った。
「通ることがありますか。あなたの主張は。」と梶は訊《たず》ねた。
「なかなか通りませんね。それでも、船のことはとうとう勝って通りました。学者はみんな僕をやっつけるんだけれども、おれは、証明してみせて云うんですから、仕方がないでしょう。これからの船は速度が迅くなりますよ。」
どうでも良いことばかり雲集している世の中で、これだけはと思う一点を、射《さ》し動かして進行している鋭い頭脳の前で、大人たちの営営とした間抜けた無駄骨折りが、山のように梶には見えた。
「いっぺん工場を見に来てください。御案内しますから。面白いですよ。俳句の先生が来たんだからといえば、許可してくれます。」栖方は、梶が武器に関する質問をしないのが不服らしく、梶の黙っている表情に注意して云った。
「いや、それだけは見たくないなア。」と梶は答えを渋った。
栖方は一層不満ら
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