犯罪
横光利一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)止木の上をアチコチ[#「アチコチ」に傍点]に
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)知らず/\に
−−
私は寂しくなつて茫然と空でも見詰めてゐる時には、よく無意識に彼女の啼声を口笛で真似てゐた。すると下の鳥籠の中から彼女のふけり声が楽しく聞えて来る。で、私もつい面白くなつてそれに応へたり誘つたりする。其中に面倒臭くなると彼女を放つたらかしておいた。が、彼女は猶も懸命にふけり続けた。凝乎とそれを聞いてゐると可哀相になつて来るので、又知らず/\に相手になつてやつたりした。今も私は彼女を呼びかけた。が、もう彼女が居ないのだと気付いて堪まらなく淋しくなつた。私は裏の山を凝乎と見た。
それは好く晴れた暖かい日であつた。私は前からゐた囮の目白を入れた籠と、新しい籠と、細い女竹に黐を塗つたのを二三本とを用意して山へ行つた。山には椿の花が沢山咲いてゐた。私は鬱然と茂つたある一本の椿の枝へ囮の籠を掛けて、上へ用意の女竹を交叉した。それからずつ
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング