がボヤケて二重に見えた。
「逃がしてやらう」私は籠の格子戸を開けた。然れ共彼女は容易に出なかつた。で、反対の方を叩くと漸つと出て、庭の上をピヨンピヨン飛んで、植木鉢の楓の下を出たり入つたりしてゐた。私は傍へ行つてシツシヨと追つてみたが、彼女は一尺も高く飛び続けることが出来なかつた。(俺は神に対する犯罪を背負つた)と私は思つた。そして今逃がすのは逃さないよりも悪いと知つたので、籠を傍へ突き付けてやると、彼女は直ぐ飛び入つて餌を啄んだ。
二三日前から彼女は夜の真暗な時になつて囀り出した。私は彼女の死を其時薄々乍らも直覚した。
今朝はいつもよりも寒かつた。
「ちよつとまあ敏来てお見。目白が面白い事をしてるえ」と母が下から云つた。私はハツとした。で、急いで下りて見ると、彼女は白い環の中の眼をパチパチやつて、間を置いては身を慄はせてゐた。と、首を縮めて動かなくなつたと思ふと、眼を開けた儘止木の上から落つこちた。
「アツ死んだ!」と母は云つた。
彼女は小さい両足を真直に尾の方へ引き延ばして、溜つた昨日の糞の上へ、白い腹を仰向きにして横になつてゐた。それが彼女の死の姿であつた。私は彼女の死骸を
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