燃えた片眼は、忽ち恐怖の光を発して拡がった。が、次の瞬間、挑《いど》みかかる激情の光に急変すると、彼は立ち上って訶和郎の死体を毛皮のままに抱きかかえた。彼は荒々しく遣戸の外へ出ていった。そうして、広場を横切り、森を斜めに切って、急に開けた断崖の傍まで来ると、抱えた訶和郎の死体をその上から投げ込んだ。訶和郎の死体は、眼下に潜んだ縹緲《ひょうびょう》とした森林の波頭の上で、数回の大円を描きながら、太陽の光にきらきらと輝きつつ沈黙した緑の中へ落下した。
二十一
夜が深まると、再び濃霧が森林や谷間から狩猟の後の饗宴に浮れている耶馬台《やまと》の宮へ押し寄せて来た。場庭《ばにわ》の草園では、霧の中で焚火《たきび》が火の子を爆《はじ》いて燃えていた。その周囲で宮の婦女たちは、赤と虎斑《とらふ》に染った衣を巻いて、若い男に囲まれながら踊っていた。踊り疲れた若者たちは、なおも歌いながら草叢《くさむら》の中に並んだ酒甕《みわ》の傍へ集って来た。彼らの中の或者たちは、それぞれ自分の愛する女の手をとって、焚火の光りのとどかぬ森の中へ消えていった。王の反耶《はんや》は大夫《だいぶ》たちの歓
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