ひらひらと舞っていた。反絵は拳《こぶし》を振りながら使部の腰を蹴って叫んだ。
「部屋を出よ、部屋を出よ、部屋を出よ。」
 二人の使部は直ちに遣戸の方へ逃げ出した。その時彼らに代って、両手に竜胆《りんどう》と萩《はぎ》とをかかえた他の二人の使部が這入《はい》って来た。反絵は二人の傍へ近寄った。そうして、その一人の腕から萩の一束を奪い取ると、彼の額《ひたい》を打ち続けてまた叫んだ。
「部屋を出よ、部屋を出よ、部屋を出よ。」
「大兄《おおえ》、我は王の言葉に従った。」
「去れ。」
「大兄、我は王のために鞭打《むちう》たれるであろう。」
「行け。」
 二人の使部は出て行った。が、彼らに続いてまた直ぐに二人の使部が、鹿の角を肩に背負って這入って来た。反絵は散乱した羽毛と萩の花の中に突き立って卑弥呼の寝顔を眺めていた。彼は物音を聞きつけて振り返ると、床へ投げ出された鹿の角の一枝を、肩にひっかけたまま逃げる使部の姿が、遣戸の方へ馳けて行くのが眼についた。反絵は捨てられた白鷺の尾羽根と竜胆の花束とを拾うと使部たちに代って円木の隙に刺していった。彼は時々手を休めて卑弥呼の顔を眺めてみた。しかし、その度《
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