ひとり空の中で喜ぶ真油の顔が高く笑った。反絵は怒りのバネに跳ね起されると、波立つ真油の腹を蹴り上げた。真油は叫びを上げて顛倒《てんとう》した。それと同時に、反絵は卑弥呼の部屋の方を振り返ると、遣戸《やりど》の中へ消えようとしている使部の黄色い背中が、動揺《どよ》めく兵士たちの頭の上から見えていた。
「真油は死んだ。」
「真油は蹴られた。」
「真油の腹は破れている。」
 広場では兵士たちの歌がやまった。あちらこちらの草叢《くさむら》の中から兵士たちは動かぬ真油を中心に馳け寄って来た。しかし、反絵は彼らとは反対に広場の外へ、鹿の死体を飛び越え、馳け寄る兵士たちを突き飛ばし、麻の葉叢の中を一文字に使部たちの方へ突進した。
 遣戸の中では、卑弥呼の眠りに気使いながら、二人の使部は、白鷺の尾羽根を周囲の壁となった円木《まろき》の隙に刺していた。
 反絵は部屋の中へ飛び込むと、一人の使部の首を攫《つか》んで床の上へ投げつけた。使部の腕からはかかえた白鷺の尾羽根が飛び散った。
「我を赦《ゆる》せ。王は部屋を飾れとわれに命じた。」転りながら叫ぶ使部の上で、白鷺の羽毛が、叩かれた花園の花瓣のように
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