》のように見えていた。反絵は蜥蜴を狙《ねら》って矢を引いた。すると、奴隷の身体は円《まる》くなって枝にあたりながら、熟した果実のように落ちて来た。反絵は、舌を出して俯伏《うつぶ》せに倒れている奴隷の方へ近よった。その時、奴隷の頭髪からはずれかかった一連の勾玉が、へし折れた羊歯の青い葉の上で、露に濡れて光っているのが眼についた。彼はそれをはずして自分の首へかけ垂らした。
十七
霧はだんだんと薄らいで来た。そうして、森や草叢《くさむら》の木立《こだち》の姿が、朝日の底から鮮《あざや》かに浮き出して来るに従って、煙の立ち昇る篠屋《しのや》からは木を打つ音やさざめく人声が聞えて来た。しかし、石窖《いしぐら》の中では、卑弥呼《ひみこ》は、格子を隔てて、倒れている訶和郎《かわろ》の姿を見詰めていた。数日の間に第一の良人《おっと》を刺され、第二の良人を撃《う》たれた彼女の悲しみは、最早《もは》や彼女の涙を誘《さそ》わなかった。彼女は乾草の上へ倒れては起き上り、起きては眼の前の訶和郎の死体を眺めてみた。しかし、角髪《みずら》を解いて血に染っている訶和郎の姿は依然、格子の外に倒れてい
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