の宮に伴なうか。われらは爾の宮を通るであろう。」
「ああ、不弥の女。爾らは我の宮を通って不弥へ帰れ。」
「卑弥呼。」と訶和郎はいった。
「待て、爾はわれに従って耶馬台を通れ。」卑弥呼は訶和郎の腕に手をかけた。
「卑弥呼、われらの路は外れて来た。耶馬台を廻れば、われらの望みも廻るであろう。」
「廻るであろう。」
「われらの望みは急いでいる。」
「訶和郎よ。耶馬台の宮は、不弥の宮より奴国へ近い。」
「不弥へ急げ。」
「耶馬台へ廻れ。」
「卑弥呼。」
訶和郎は、眼を怒らせて、卑弥呼の腕を突き払った。その時、今まで反耶の横に立って、卑弥呼の顔を見続けていた彼の弟の片眼の反絵《はんえ》は、小脇に抱いた法螺貝《ほらがい》を訶和郎の眉間《みけん》に投げつけた。訶和郎は蹌踉《よろ》めきながら剣の頭椎《かぶつき》に手をかけた。反絵の身体は訶和郎の胸に飛びかかった。訶和郎は地に倒れると、荊《いばら》を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》って反絵の顔へ投げつけた。一人の兵士は鹿の死骸で訶和郎を打った。続いて数人の兵士たちの松明は、跳ね上ろうとする訶和郎の胸の上へ投げつけられた。火は胸の上
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