点々と輝き出した。そうして、それらの松明は、見る間に一列の弧線を描いて拡がると、忽《たちま》ち全山の裾を円形に取り包んで縮まって来た。鹿の流れは訶和郎の馬を浮べて逆上した。再び彼らの団塊は、小山の頂で踏み合い乗り合いつつ沸騰した。松明を映した鹿の眼は、明滅しながら弾動する無数の玉のように輝いた。その時、一つの法螺《ほら》が松明の中で鳴り渡った。兵士たちの収縮する松明の環《わ》は停止した。それと同時に、芒の原の空中からは一斉に矢の根が鳴った。鹿の群れは悲鳴を上げて散乱した。訶和郎の馬は跳ね上った。と、訶和郎は卑弥呼を抱いたまま草の上に転落した。しかし、彼は窪地の中に這《は》い降《お》りると、彼女の楯《たて》のようにひれ伏して矢を防いだ。矢に射られた鹿の群れは、原の上を狂い廻って地に倒れた。忽ち窪地の底で抱き合う二人の背の上へ、鹿の塊《かたま》りがひき続いて落ち込むと、間もなく、雑然として盛り上った彼らは、突き合い蹴り合いつつ次第に静《しずか》に死んでいった。そうして、彼らの傷口から迸《ほとばし》る血潮は、石垣の隙間を漏れる泉のように滾々《こんこん》として流れ始めると、二人の体を染めながら
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