燈油の皿に燃えている燈火は、一様に君長の方へ揺れていた。暫《しばら》くして、そこへ、数人の兵士たちを従えて現れたのは長羅《ながら》であった。
「父よ、我は勝った。我は不弥《うみ》の宮の南北から襲め寄せた。」と長羅はいった。
「美女は何処《いずこ》か。」
「父よ。我は不弥の宮に立てる生き物を残さなかった。我は王を殺した、王妃《おうひ》を刺した。」
「美女をとったか。」
「美女をとった。そうして、宝剣と鏡をとった。我の奪った宝剣を爾《なんじ》は受けよ。」
「美女は何処か。不弥の美女は潮の匂いがするであろう。」
長羅は兵士たちの持って来た剣と、苧《からむし》の袋の中からとり出した鏡と琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]《ろうかん》の勾玉《まがたま》とを父の前に並べていった。
「父よ。爾は爾の好む宝を選べ。宝剣は韓土の鉄。奴国《なこく》の武器庫《ぶきぐら》を飾るであろう。」
「長羅よ。我は爾の殊勲に爾の好む宝剣を与えるであろう。我に美女を見せよ。不弥の美女は何処にいるか。」
君長は御席《みまし》の上から立ち上った。長羅は一人の兵士に命じて言った。
「連れよ。」
卑弥呼は後に剣を抜
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