に真砂《まさご》を爾に見せるであろう。」
「爾の玉は爾の小指のように穢れている。」と、大兄はいうと、その皮肉な微笑を浮べた顔を、再び砂浜の松明の方へ振り向けた。「見よ、松明は輝き出した。」
「此処《ここ》を去れ。此処は爾のごとき男の入るべき処《ところ》ではない。」
「我は帰るであろう。我は爾の管玉を奪えば爾を置いて帰るであろう。」
「我の玉は、爾に穢されたわが身のように穢れている。行け。」
「待て、爾の玉は爾の霊《たましい》よりも光っている。玉を与えよ。爾は玉を与えると我にいった。」
「行け。」
 卑狗の大兄は笑いながら、自分の勾玉をさらさらと小壺に入れて立ち上った。
「今宵《こよい》は何処《いずこ》で逢《あ》おう?」
「行け。」
「丸屋《まろや》で待とう。」
「行け。」
 大兄は遣戸《やりど》の外へ出て行った。卑弥呼は残った管玉を引きたれた裳裾《もすそ》の端で掃《は》き散《ち》らしながら、彼の方へ走り寄った。
「大兄、我は高倉の傍で爾を待とう。」
「我はひとり月を待とう。今宵の月は満月である。」
「待て、大兄、我は爾に玉を与えよう。」
「爾の玉は、我に穢された爾のように穢れている。」
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