あろう。鶴は爾の顔を朱《あけ》に染めるであろう。爾の母は我に猪と鶴とを食わしめた。」
「父よ、我は不弥《うみ》を攻める。我に爾は兵を与えよ。」
「不弥は海の国、爾は塩を奪うか。」
「奪う。」
「不弥は玉の国、爾は玉を奪うか。」
「奪う。」
「不弥は美女の国、爾は美女を奪うて帰れ。」
「我は奪う、父よ、我は奪う。」
「行け。」
「ああ、父よ、我は爾に不弥の宝を持ち帰るであろう。」
 長羅は君長《ひとこのかみ》の前を下ると、兵部の宿禰を呼んで、直ちに兵を召集することを彼に命じた。しかし、兵部の宿禰は、この突然の出兵が、娘、香取の上に何事か悲しむべき結果を齎《もたら》すであろうことを洞察した。
「王子よ、爾は一戦にして勝たんことを欲するか。」
「我は欲す。」
「然《しか》らば、爾は我が言葉に従って時を待て。」
「爾は老者、時は壮者にとりては無用である。」
「やめよ。我の言葉は、爾の希望のごとく重いであろう。」
 長羅は唇を咬《か》み締《し》めて宿禰を見詰めていた。宿禰は吐息を吐いて長羅の前から立ち去った。

       六

 奴国《なこく》の宮からは、面部の※[#「王+夬」、第3水準1−
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