度《ちょうど》お茶《ちゃ》を持《も》って這入《はい》って来《き》ていつものように話《はな》し出《だ》し、そのダイヤモンドはどこの産《さん》かと質問《しつもん》した。所《ところ》が、私《わたし》にはそのダイヤモンドの母岩《ぼがん》との関係《かんけい》とか産出状態《さんしゅつじょうたい》とか自然性《しぜんせい》の結晶面《けっしょうめん》とかは分《わか》っていても、その少女《しょうじょ》の最《もっと》も知《し》りたい平凡《へいぼん》なことだけは分《わか》らなかった。すると、Qは実《じつ》に私《わたし》も驚歎《きょうたん》したのであるが、直《ただ》ちにそれはミナスゲラスだといい切《き》った。私《わたし》にはミナスゲラスはどこの国《くに》にあるのかさえも分《わか》らないのに、リカ子《こ》――漸《ようや》く女学校《じょがっこう》を出《で》かかった彼女《かのじょ》に、分《わか》ろう筈《はず》もないことをいうQの心理《しんり》に、初《はじ》めは私《わたし》とて驚《おどろ》かざるを得《え》ないのだが、しかし、私《わたし》の驚《おどろ》きは忽《たちま》ち彼《かれ》への尊敬《そんけい》の念《ねん》へ変《かわ
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