は出来《でき》ないであろうと私《わたし》がいうと、リカ子《こ》は顔《かお》を赧《あか》らめながら「行《ゆ》く」といった。そこで私《わたし》はリカ子《こ》をQの家《いえ》の門《もん》まで送《おく》ってゆきながら、途々《みちみち》、また私《わたし》はQとの「忍耐《にんたい》」の競争《きょうそう》においても彼《かれ》から敗《ま》かされたことに気《き》がついた。しかし、それからの私《わたし》ひとりの生活《せいかつ》の寂《さび》しさは彼女《かのじょ》を負《お》っていた日《ひ》の「忍耐《にんたい》」とは比《くら》べものにならなかった。殊《こと》にときどきリカ子《こ》はひとり私《わたし》の所《ところ》へ遊《あそ》びに来《く》るのだ。私《わたし》はリカ子《こ》に来《く》るなといっても是非《ぜひ》Qが私《わたし》の所《ところ》へゆけといってきかないという。それならなお来《き》てはいけないではないかというと、でも私《わたし》も来《き》てみたいのだと彼女《かのじょ》はいう。私《わたし》が来《く》るなといいQが行《ゆ》けというこの虔《つつ》ましやかな美徳《びとく》の点《てん》においてさえも、猶且《なおか》つ行
前へ
次へ
全58ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング