以上《いじょう》にはもう考《かんが》えることが出来《でき》なかった。それで私《わたし》はお前《まえ》はそれでQを愛《あい》しているのかと訊《き》くと、愛《あい》してはいるが前《まえ》のようではない、私《わたし》はやはりあなたの方《ほう》を愛《あい》しているのだという、嘘《うそ》にしてもそれは私《わたし》には喜《よろこ》ばしいのだが、どうしてこういうことが喜《よろこ》ばしいのかもう私《わたし》は自分《じぶん》が分《わか》らなくなって来《き》た。いやそれよりあれほどもQを慕《した》いながら出《で》ていったリカ子《こ》が、まだ一|年《ねん》ともたたない今頃《いまごろ》どうしてこれほども変《かわ》って来《き》たのであろう。それは丁度《ちょうど》私《わたし》の家《うち》にいたときの彼女《かのじょ》がデアテルミイの醒《さ》めるに従《したが》って逃《に》げ出《で》たように、Qから逃《に》げ出《だ》して来始《きはじ》めたのも、Qの中《なか》に潜《ひそ》んでいた新《あたら》しいデアテルミイの私《わたし》が効力《こうりょく》を失《うしな》い出《だ》して来《き》たからではなかろうか。私《わたし》がリカ子《こ》と最初《さいしょ》に結婚《けっこん》する破目《はめ》になったのも、彼女《かのじょ》の身体《からだ》にデアテルミイが火《ひ》を点《つ》けたからにちがいないのだ。彼女《かのじょ》がQと結婚《けっこん》したのも、私《わたし》がデアテルミイのように彼女《かのじょ》に火《ひ》を点《つ》けていたからにちがいないのだ。そうしていままた彼女《かのじょ》が私《わたし》へ舞《ま》い戻《もど》って来始《きはじ》めたのは、Qのデアテルミイが彼女《かのじょ》に火《ひ》を点《つ》け返《かえ》して来《き》たのであろう。私《わたし》はこの女《おんな》がもう嫌《きら》いだ。出《で》ていけ、畜生《ちくしょう》、そう私《わたし》が黙《だま》って腹《はら》の中《なか》で叫《さけ》んでいると、リカ子《こ》は私《わたし》に考《かんが》えを与《あた》えないかのように、急《きゅう》に今迄《いままで》慎《つつし》んで来《き》たQの悪口《あっこう》を切《き》って落《おと》したようにいい始《はじ》めた。彼女《かのじょ》のいうにはあなたの悪口《あっこう》をいう、あなたがあれほどもQをひそかに賞《ほ》めているにも拘《かかわ》らずQはそれが反対《はんたい》だ。私《わたし》はQのどこが豪《えら》いのかこの頃《ごろ》どこからも感《かん》じることが出来《でき》ない。あれは贋物《にせもの》で嘘《うそ》つきで負《ま》けず嫌《ぎら》いでその癖《くせ》威張《いば》ることだけが何《なに》より好《す》きで、知《し》っているのは女《おんな》のことと人《ひと》を軽蔑《けいべつ》することだけだという。私《わたし》は唖然《あぜん》として彼女《かのじょ》の顔《かお》を見《み》ているとリカ子《こ》は笑《わら》いながらもその笑《わら》う度《たび》にだんだん蒼《あお》ざめていきつつ涙《なみだ》を流《なが》していい出《だ》すのだ。私《わたし》は擦《す》りあったガラスの奥《おく》でまた別《べつ》のガラスが擦《す》り合《あ》っているのを見《み》ているようで、どこからどこまでが私《わたし》の喜《よろこ》ぶべき領分《りょうぶん》かどこでQが蹴《け》りつけられているのか朦朧《もうろう》とし始《はじ》めた。するとリカ子《こ》は私《わたし》の咽喉笛《のどぶえ》に食《く》いつくように、あなたは馬鹿《ばか》でお人好《ひとよ》しのように見《み》える癖《くせ》に猾《ずる》くて隅《すみ》に置《お》けなくて、くよくよしている坊主《ぼうず》みたいにめそめそしていてそれに説教《せっきょう》ばかりしたがってとやっつけ出《だ》した。このリカ子《こ》の暴風《ぼうふう》のような暴《あば》れ出《だ》し方《かた》が今迄《いままで》Qの悪口《あっこう》を聞《き》いて不快《ふかい》になっていた私《わたし》の心《こころ》を吹《ふ》き払《はら》った。そればかりではない、私《わたし》にはリカ子《こ》のいっていることがいちいち胸《むね》に応《こた》えて来《き》て、そうだ、そうだと首《くび》まで調子《ちょうし》を合《あわ》せて頷《うなず》くのだ。全《まった》く私《わたし》は今《いま》までQとリカ子《こ》とから賞《ほ》められすぎて来《き》たのである。私《わたし》は賞《ほ》められれば賞《ほ》められるままの姿《すがた》に堅《かた》められ、ますます不幸《ふこう》な方向《ほうこう》へばかり辷《すべ》り込《こ》んで来《き》ていたのだ。その癖《くせ》心《こころ》は絶《た》えず反対《はんたい》の幸福《こうふく》を望《のぞ》み、人《ひと》に勝《か》つことを心《こころ》がけ、負《ま》けると人《ひと》の急所《きゅう
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