》り私《わたし》にちがいないのだし、私《わたし》とても彼女《かのじょ》に逢《あ》わない日《ひ》が続《つづ》くと、その間《あいだ》は殆《ほとん》どリカ子《こ》の幻想《げんそう》ばかりで埋《うず》まってしまうのだ。これでは困《こま》る、どうかしようと思《おも》ってもそのうちにわれながら浅《あさ》ましくなるほど元気《げんき》がすっかりなくなってぼんやりする。私《わたし》はリカ子《こ》に私《わたし》の寂《さび》しさを告《つ》げることが出来《でき》ないばかりではない。彼女《かのじょ》に逢《あ》うとただ一|途《ず》に彼女《かのじょ》に逢《あ》いたくないことばかりをいわねばならぬのだ。彼女《かのじょ》もそれを知《し》っていて、私《わたし》に逢《あ》いに来《く》ると逢《あ》いたくなったとはいわずにQの美点《びてん》ばかりをいうのである。私《わたし》は彼女《かのじょ》からQの悪口《あっこう》を聞《き》くよりも二人《ふたり》で認《みと》めた美点《びてん》をなお持続《じぞく》させて喜《よろこ》ぶ方《ほう》が良《よ》いのだが、しかしだんだんQを賞《ほ》めているリカ子《こ》の言葉《ことば》が私《わたし》の性格《せいかく》に喜《よろこ》びを与《あた》えるためだけだと感《かん》じ出《だ》した。何《なに》か彼女《かのじょ》のうちには私《わたし》の思《おも》っていること以外《いがい》の新《あたら》しい変化《へんか》が起《おこ》っているのではないか。そう私《わたし》が思《おも》ってから暫《しばら》くしてからであった。地質学者《ちしつがくしゃ》の雑誌《ざっし》の上《うえ》で続《つづ》けていたQとAとの介殻類《かいがらるい》の化石《かせき》に関《かん》する論争《ろんそう》が激《はげ》しくなった。それは私《わたし》のQを怨《うら》む心《こころ》が手伝《てつだ》わなくとも、その豊富《ほうふ》な材料《ざいりょう》の帰納的《きのうてき》な整理《せいり》においても推理《すいり》を貫《つらぬ》く原則《げんそく》の確実《かくじつ》な使用法《しようほう》においても明《あき》らかにQの方《ほう》の負《ま》けであった。終《しま》いにはQはAから独逸語《ドイツご》のPerefactenよりFossilの方《ほう》が化石《かせき》の意味《いみ》には適当《てきとう》しているからそれを使《つか》え、Fossilはラテン語《ご》の掘《
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