むべき方向はどこであろうか。こう考えているときまた一人の若い作家が梶に訊ねた。
「日本の現在の左翼の状態はどんな風ですか」
「左翼はなかなか繁栄したときもあります。しかし、日本は昔からそのときの思想状態を是非必要と感覚しないかぎり、どのような思想も行為も無駄となりますから、そのために秩序が乱れる恐れが生じると、これを枯らしてしまう自然という恐ろしい力があるのです。この自然力は物理的なもので、ヨーロッパの知性も日本へ侵入して来る度に、この自然力と争わねばならぬのです。つまり、日本はいかなる思想も物もそれを選択する場合に個人の意志では出来ません。自然力に任せてこれの命ずるままに従わねばならぬのです。個人の役に立たぬそのような日本では、従って第一番の芸術家や思想家は自然という秩序です。日本の左翼も自然発生から自然消滅の形をとって進行していますが、それは思想の無力というよりも、思想と同程度に整えられた秩序の強力なためなのです」
梶の友人は彼の言葉を通訳すると、若い作家は肩を縮め両手を上げて驚きの表情を現した。しかし、彼は何事も云わずにすぐ隣りの彫刻家と話をした。そのとき、一番最後に這入って来
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