はもう古くさいよ。ただフランスの左翼はトロツキイ派が多いんだが、スターリン派の左翼とどうなるかというのが、一番僕には面白いね。これは日本で考える以上にもっと性質の違った複雑な問題なんだ。僕がモスコーへ行ったとき聞いたんだが、この六月にチタで汽車の衝突事件があっただろう。汽車が衝突したというので、駅長から助役、機関手みな責任者を即決裁判で銃殺しちまったんだ」
「ふむ」と友人は眼を見張った。
「それもスタハノフ運動という貨物の能率増進運動を妨害しようとしたトロツキイ派の一味だからというのだが、しかし、日本の左翼はスターリン派かトロツキイ派か、どっちが有力なんだ。君聞かないか」
「それゃ聞かないね。しかし、無茶をしよるな」とまだ友人は考えている風だった。
「しかし、左翼の一番の強敵は右翼じゃなくて同じ左翼だというのが、今じゃ現実そのものになって来たんだから、思想もどこまでこ奴、悪戯《ふざ》けるか底が知れないよ。現実を全くひやかしてるようなもんだからね。そこをユダヤ人がまた食いさがってにやにやするという寸法だ。良い加減に腹を立てる奴も出て来るさ。とにかく、もう世界の知識階級は云うこともすることも無くなったよ。知性が知性を滅ぼしておけさ踊りをしてるんだ」
「しかし、日本も累進率の税法で、これから文化がどしどし上る一方だよ。左翼のやれなかったものを、妙なところがやりよったのだ。面白いね。長い間金持ちが金を儲けすぎた罰がとうとう来たんだね」
重役でありながらこのようなことを云う友人の顔を見ながら、梶は日本の変化の凄《すさま》じさを今さら見事だとまたここでも感服するのだった。
彼は事ごとにこのごろの日本に感服する自分をこれはどうしたことであろうかと思った。寝足りた朝のように平凡な雑草まで眼をとめて眺めたいのは、これは自分も一人前に成長して来たからだと思われた。
梶が友人と別れて帰って来たときはもう夜になっていた。家の掃除も引き越しも無事に出来上っていたので一同夕食をとろうとして茶の間へ集った。すると、それまで外で遊んでいた長男は帰って来たが、次男の四つになるのがいつまで待っても姿を見せなかった。どこへ行ったのかと梶が訊ねても誰も知らなかった。彼はすぐ人を四方へ走らせてみた。しかし、いずれも帰って来たものはみな要領を得なかった。初めのうちはそれぞれあまり気にもせずそのうちひょっ
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