戚すじにひかえていたから、日本の財界の動きにかけては誰より確実な早耳を持っていた。重役室で梶は友人に逢うと、自分のいなかった間に変化して来た裏面の動きを訊《たず》ねてみた。
「そうだ。君のいない間にがらりと変ってしまったぞ。たいへんな事になってしまったよ。税制改革で年に百万円|儲《もう》けるものは五十万円の税だよ。それも累進率だから、儲かれば儲かるほど出すのも上るわけさ、相続税だって財産の三分の二以上とられるんだ。こうなると二百万円の財産だって、孫の代には一文もなくなってルンペンになり下るという寸法になって来る。百円の収入以上のものには、もう皆かかって来るんだ。君も考えないといけないぜ」
こういう友人の言を寝耳に水のごとく梶は聞いていた。
「それゃ、大革命が起ってるんじゃないか。まだ誰にも聞かなかったが本当か」
「誰が嘘を云うものか、まだ誰も気が附かんだけだよ。この二三日財界は大騒動だ。関西からは電報ばかりだが、誰もどうしていいか知らんのさ。こうなれば君、財産の隠しようがないからね。おまけに儲けたって仕様がないから今までの財界の玄人《くろうと》がみな尋常一年生になっちゃったんだ。現に新東が焦げつき相場でじっとしたままだよ。それが証拠じゃないか。上げも下げもならんのだよ。どうしていいんか分らないんだからね」
「しかし、それゃ、面白くなって来たね」
「面白いよ。僕の会社もこうなれば、機械に金をかけて良い品物を造るより仕様がなくなった。重役会議を昨日開いたんだが、僕はそれを主張したんだ。皆だい賛成だ。ボーナスもうんと出す。社員を遠足させたり、会をやって御馳走《ごちそう》して楽しませたりする方に、金をどんどん使うんだ。しかし、やりよったなア。大蔵省、とうとうやりやがった。豪《えら》いよ。もう金持連中、利子では食えなくなるからな。とにかく、ここ一週間どこの会社だって、それで重役会議ばかりだよ」
「議会はしかし通過するのかね」と梶もあまりの変化にまだ嘘のような気持ちだった。
「通過するさ。それゃもうちゃんと定《きま》ってるんだ。財界の大立物が重役をみなやめちゃったのもそれなんだよ。あ奴《いつ》らはそこがまた豪いとこなんだね。矢っ張りインテリの重役じゃなくちゃ駄目なんだよ。ヨーロッパはどうだね。近頃は」
「いや、そういう面白い話を聞いちゃ、ヨーロッパどころじゃないね。あっちの話
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