。そこで仕方がないので隣室の私の部屋の押入で寢てゐたら、たうとう搜しあてられずに夜が明けたさうである。
私と女は波を消した渚に添つて歩いていつた。向日葵《ひまはり》が垂れた首のやうに砂の中に立つてゐた。寢ているキャムプの布の傍まで來かかると、女は思ひ出した數日前の出來事をまた話した。――もう一週間にもなりますかしら。それは綺麗な明るい奧さんが二階のお部屋に一人で來ていらつしやいましたんですが、丁度こんなお月夜の晩、あたくしをお誘ひになりましたので、二人で向ふ岸にゐる學生さんたちのキャムプを見に、ボートで出かけて行きましたの。さうしましたら、向ふへ上るとすぐに、先生が一人出ていらつしやいまして、今夜は學生を澤山つれて來てゐるんだから、すぐ歸つてくれつて叱るんでございますよ。あの向ふ岸へは誰が行かうと勝手ですのに、そのときはそんなことも云つてゐられませんで歸つて來ましたが、でも、ここにゐると淋しくなるので、つい見に行きたくなるのも無理はないとあたくし思ひましたのでございますよ。
眠れぬままに、私はここへ來て最初に腰を降ろしたときの眺望の印象を思ひ起さうとつとめてみた。しかし、もうそ
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