のような形をしているに相違ないと灸は考えた。
雨垂《あまだ》れの音が早くなった。池の鯉《こい》はどうしているか、それがまた灸には心配なことであった。
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「雨こんこん降るなよ。
屋根の虫が鳴くぞよ。」
[#ここで字下げ終わり]
暗い外で客と話している俥夫《しゃふ》の大きな声がした。間もなく、門口《かどぐち》の八《や》つ手《で》の葉が俥《くるま》の幌《ほろ》で揺り動かされた。俥夫の持った舵棒《かじぼう》が玄関の石の上へ降ろされた。すると、幌の中からは婦人が小さい女の子を連れて降りて来た。
「いらっしゃいませ。今晩はまア、大へんな降りでこざいまして。さア、どうぞ。」
灸の母は玄関の時計の下へ膝をついて婦人にいった。
「まアお嬢様のお可愛《かわい》らしゅうていらっしゃいますこと。」
女の子は眠むそうな顔をして灸の方を眺めていた。女の子の着物は真赤《まっか》であった。灸の母は婦人と女の子とを連れて二階の五号の部屋へ案内した。灸は女の子を見ながらその後からついて上ろうとした。
「またッ、お前はあちらへ行っていらっしゃい。」と母は叱った。
灸は指を食《く》わえて階段
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