糖を甜《な》める舌のように、あらゆる感覚の眼を光らせて吟味しながら甜め尽してやろうと決心した。そうして最後に、どの味が美味《うま》かったか。――俺の身体は一本のフラスコだ。何ものよりも、先《ま》ず透明でなければならぬ。と彼は考えた。
ダリヤの茎が干枯《ひから》びた繩《なわ》のように地の上でむすぼれ出した。潮風が水平線の上から終日吹きつけて来て冬になった。
彼は砂風の巻き上る中を、一日に二度ずつ妻の食べたがる新鮮な鳥の臓物を捜しに出かけて行った。彼は海岸町の鳥屋という鳥屋を片端から訪ねていって、そこの黄色い爼《まないた》の上から一応庭の中を眺め廻してから訊《き》くのである。
「臓物はないか、臓物は」
彼は運好く瑪瑙《めのう》のような臓物を氷の中から出されると、勇敢な足どりで家に帰って妻の枕元に並べるのだ。
「この曲玉《まがたま》のようなのは鳩《はと》の腎臓《じんぞう》だ。この光沢のある肝臓はこれは家鴨《あひる》の生胆《いきぎも》だ。これはまるで、噛《か》み切った一片の唇《くちびる》のようで、この小さな青い卵は、これは崑崙山《こんろんざん》の翡翠《ひすい》のようで」
すると、彼の
前へ
次へ
全22ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング